Y君は高校入試に失敗し、滑り止めの高校に入学した。その高校は不真面目な生徒が多く、授業が成り立たないこともしばしば。何のために高校に通わなくてはならないのかということに悩み、無気力に陥り不登校になる。心配した両親は相談した知人から当塾を紹介してもらい、本人を連れてやってきた。入塾面談のあと入塾となり、初回の個別指導で私は英語を担当することになった。
個別指導初日、時間通りにY君はやって来た。表情からはやる気を感じられず、態度も投げやりだった。今の彼には、勉強を教えてほしいという気持ちが無いことは明らかだった。そこで英語の指導をやめてコーチングしてみることにした。学校のこと、部活のこと、先生のこと、同級生のこと、高校入試のこと、世の中のことなど、自分の正直な思いを話すことが安心・安全の場だと感じると、彼はどんどん話してきた。私は傾聴・承認・質問を繰り返した。私の考えを求められたら、率直に話した。90分の指導時間の予定が、気づいたら120分経っていた。最初は何のために生きているのかわからないと言っていたY君が「幸せになりたい」とポツリと言った。
翌日Y君は自習にやってきた。そして英語の勉強のやり方を教えてほしいと言ってきた。その前向きな変化が嬉しいとI(アイ)メッセージを送った。それから彼は毎日塾にやって来た。教室が開く午後2時から夜10時の終了時間まで、ずっと勉強していた。高校は休んでいるので私服姿だ。ある日高校を辞めるか続けるかで悩んでいると相談を受けた。「自分で決めたらいい。どっちを選んでも、Y君を応援するよ。」と伝えた。
後日、いつもなら教室を開けるとすぐにやって来るY君が、日が暮れてもやって来ない。間もなく夜になり、ようやくY君が姿を見せた。制服姿だった。「今日はいつもより遅かったね。」と声をかけた。「実は、今日から高校に行き始めました。高校は辞めずに続けることにしました。どんな環境であろうと、自分次第かなと思って。」私はうんうん頷き「感動した!」と伝えた。
それから1ヶ月程して、模試の受験結果の報告を受けた。前回10点台だった英語が急上昇し学年1位になった。偏差値は全国で74.4だった。あの無気力なY君はどこにもいなかった。外国語学部に行きたいと照れながら笑うY君を見て、私は感動して涙が滲んだ。
(上記の実話は、私にとっての思い出に残る指導のひとつです。記事タイトルはドラマ「スクール・ウォーズ」の中で滝沢先生が恩師から教わった言葉です。)